膝蓋骨内方脱臼:パテラについて
〈膝蓋骨脱臼とは?〉
膝蓋骨脱臼とは、本来は膝蓋骨(膝のお皿の骨)が大腿骨(太ももの骨)の真正面になければいけないのに、膝蓋骨が脱臼(元の位置からずれる)してしまう病気です。内側にずれてしまうことを内方脱臼、外側にずれてしまうことを外方脱臼といいます。
〈どんな犬種に多い?〉
小型犬に多く、とくにトイ・プードルで多く見られます。
まれにではありますが、ねこちゃんや大型犬でも見られます。
〈症状は?〉
後ろ足を上げたり、うまく歩けなかったりします。また、歩けていてもガニ股であったり立ち姿がなんかおかしいといったことで来院されることもあります。はずれたときに痛みが出るため「キャン」と鳴いたり、脚に触れたときに怒ることもあります。
〈原因は?〉
原因の多くはわかっていませんが、遺伝性であろうと言われています。年齢が若い子では、早期から膝蓋骨が外れてしまっていることによりひざの関節がうまく形成されなくなってしまうことがあります。このため早期に治療することで成長期にしっかりと関節を形成させてあげる必要があります。あまり多くはないですが、ある程度成長してから発生する場合については、外傷が原因となることもあります。
〈膝蓋骨脱臼のグレードについて〉
Grade 1:身体検査のときに、手で膝蓋骨をはずすことができるが手を離すとすぐに元の位置に戻る 。
Grade 2:身体検査のときに、膝を曲げることで膝蓋骨がはずれる。膝を伸ばしてあげると元の位置に戻る。大腿骨が軽度に曲がって(湾曲)したり、捻じれる (捻転)ことがある。
Grade 3:通常でも、膝蓋骨がはずれてしまっている。身体検査のときに手で元の位置に戻すことができる。しかし、膝を曲げると再びはずれてしまう。膝周辺の筋肉や太もも、すねの骨 (脛骨)が変形していることもある。
Grade 4:膝蓋骨は常にはずれている状態で、身体検査のときに手で元の位置に戻そうとしても戻すことはできない。膝周辺の筋肉や太もも、脛骨は顕著に変形している。
〈診断〉
身体検査で実際に膝蓋骨を触ったり、レントゲン検査により診断します。
〈治療〉
内科治療:痛み止めのお薬を内服します。わんちゃんへの負担が少ないことが利点です。お薬で症状が治まれば治療終了です。膝蓋骨がはずれたときに痛みが出ますので、予防としては、フローリングなど床が滑りやすい場合にはマットやカーペットなどを敷いていただくことでリスクを軽減します。
外科治療:お薬で症状の改善が認められない場合や症状の再発が認められる場合は、基本的には外科治療 (手術)が推奨されます。特に、grade 4の若いわんちゃんに関しては、手術が強く推奨されます。現在、症状が強く出ていない場合でも、骨が少しずつ変形してしまい、変形してからでは手術リスクが上がります。さらに、老齢になり筋力が衰えてくると膝蓋骨がはずれていることで他のわんちゃんと比べてより早くから歩けなくなってしまうこともあります。
〈当院での治療〉
当院では、内科治療はもちろんのこと外科手術にも対応しております。
内方脱臼に対する外科手術では、以下の術式が主に行われます。
滑車溝形成術:大腿骨の溝を深くすることで膝蓋骨をここにはめこみ、外れにくくします。
脛骨粗面転移術:脛骨が内側の組織に引っ張られ回転してしまっている症例には、骨の一部を切り、元の位置 (真正面)に戻します。
縫工筋前部・内側広筋リリース:内側の筋肉や関節を包んでいる内側の組織 (関節包)を切開することで膝蓋骨を内側に引っ張る力を減らします。(外方脱臼では、外側組織に対して行う)
関節包縫縮:関節を取り囲んでいる関節包を縫い縮めることにより、膝蓋骨を大腿骨に押し当て、脱臼しづらくします。
実際には、骨の変形や回転、筋肉の伸び縮みの程度、年齢などを総合的に判断しこれらの手術を組み合わせて行います。
もちろん膝の状態を見て、他の術式を選択することもあります。症状でお困りでしたら、一度診察にいらしてください。