はじめに
僧帽弁閉鎖不全症とは、犬に発症しやすい心臓病です。 心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流する病気のことです。 おもに犬で一般的によくみられる病気です。
病態
心臓の左心房と左心室の間には僧帽弁という血流の逆流を防ぐ弁があります。 僧帽弁がなんらかの原因で変性すると血液が逆流し、心臓が大きくなります。 心臓が大きくなると肺に負担がかかるので、肺水腫(肺に水が溜まる病気)を併発します。 肺水腫になると呼吸が苦しくなるので死に至る場合があります。

症状
- ・咳が出る
- ・昔と比べて散歩の距離が減り、歩くのを嫌がるようになった(運動不耐性)
- ・呼吸が速い
咳が出る他の病気
- ・気管虚脱
- ・肺炎や肺腫瘍などの肺疾患
- ・ケンネルコフ
- ・異物などの誤飲
診断
循環器疾患の診断には、以下の検査を組み合わせて総合的に診断します。
- ・血液検査
- ・レントゲン検査
- ・心臓超音波検査(エコー検査)
- ・血圧測定
- ・心電図検査
心臓超音波検査は技術を要する検査の一つであり、一般的には難しいとされていますが
当院には経験豊富な獣医師が所属しており、詳細な検査が可能です。
分類(ACVIM)
- stageA MRのリスクがある犬種 心臓に異常な構造はなし(キャバリア)
- stageB1 心臓エコー・X線で基準を満たさない(EPIC基準を満たさない)
- stageB2 心臓エコー・X線で基準を満たす(EPIC基準を満たす)
- LA/AO 1.6< LVIDDN1.7< VHS10.5<
- stageC 肺水腫になったことがある
- LA/AO 1.6< LVIDDN1.7< VHS10.5<
- stageD 難治性(末期)
※逆流があるエコー写真です。黄色の所が逆流を認める箇所です。

治療
・内科治療
ACVIM分類のstageB2からお薬を飲み始めます。
- ・心臓の薬(ピモベンダン)
- ・利尿薬(フロセミドやトラセミド、スピロノラクトンなど)
- ・血管の薬(アムロジピン、シルデナフィル)
・外科治療
根本的な治療は外科手術です。
当院では心臓外科専門医による手術を行っています。詳しくはお問い合わせください。
心臓外科手術について
心臓病は進行していく病気であり、その機能が元に戻ることはありません。今までは、毎日薬を飲み続ける内科治療しか選択肢がありませんでしたが、人と同様に動物でも人工心肺を用いた手術が少しずつ普及してきています。その手術による外科治療では心臓をできるだけ元の状態に近づけることができます。ペットの高齢化に伴い、心臓病の動物は増加傾向にあり、心臓病で苦しむ子たちを少しでも減らせるようにと思い、当院でも心臓病の手術をはじめさせていただきました。
手術内容
人医療と同じように人工心肺を用いた手術を行います。全身吸入麻酔下で手術開始し、体外循環を行います。体外循環とは、心臓や肺の機能を一時的に機械が代行し、生命維持を行うことです。その間に開心手術を行い、手術が終われば、体外循環から動物自身の機能に戻します。その後、縫合を行い、麻酔を覚まし、ICUへ移動します。臨床工学技士をはじめとした専門性のあるスタッフも一緒にチームとなり、手術を行います。
手術時間
人口心肺を用いて心臓の動きを一度止めて手術を行うため、通常の手術よりも時間が必要となり、約6~7時間の手術となります。心臓を止めている時間は、体外循環を行うあいだのみとなり、約1時間程度となります。
術式
僧帽弁閉鎖不全症の手術は、腱索再建術と弁輪縫縮術を組み合わせた僧帽弁形成術を行います。
腱索再建術
乳頭筋を土台として、僧帽弁を支えている「腱索」を再建する手術です。腱索が断裂したり緩んだりすることで、血液の逆流が生じます。そこで、この手術では心臓手術に用いられる特殊な糸を用いて、乳頭筋から僧帽弁へと糸をかけ、腱索を新しく再建します。腱索の再建することで、僧帽弁の機能が保たれ、血液の逆流量を軽減することができます。
弁輪縫縮術
僧帽弁閉鎖不全症による心拡大で弁輪は拡張してしまいます。そこで、拡張してしまった僧帽弁の弁輪を、巾着袋のように縫うことで縮め、弁の機能を修復する外科手術です。拡張した弁輪を正常な弁輪径にまで縫い縮めることで、僧帽弁逆流を制御します防ぎます。
入院及び術後について
手術前日に入院となり、手術当日は24時間管理を行います。その後は、状態に合わせて入院管理を実施します。合併症や他の疾患もある場合は入院期間が長くかかる場合もあり、退院の目安は7~14日となります。抜糸は術後2週間前後に行います。退院後の術後1年間は定期的に来院して、心臓の状態を確認する必要があります。
まとめ
心臓の薬が必要かの判断は、必ず超音波検査(エコー検査)とレントゲン検査を実施してから決めます。 心臓が大きい場合、必要に応じて利尿薬を飲ませ始めます。その場合は血液検査をします。 当院では超音波検査をしていないにも関わらず、心臓の薬を処方されている場合などのセカンドオピニオンを受け付けています。お気軽にご相談ください。 また、心雑音が聞こえると言われたことがあるワンちゃんはDOGドック(健康診断)をお勧めしておりますので こちらもご相談ください。



